鹿児島県鹿児島市薬師に大正8年に開業した「薬師湯」。
鹿児島市街地の温泉の中ではもっとも長い歴史を持つ温泉の1つです。
昭和49年に現在の「薬師温泉」となり、
以後50年近く天然温泉を源泉のまま
「沸かさず・薄めず・掛け流し」で営業しておりましたが、
浴室内の壁のヒビや建物自体の老朽化の影響で、建物の建て替え、
もしくは廃業を検討していました。
今現在もたくさんの方に愛されている「薬師温泉」を廃業させるわけにはいかない!
という強い決意を持ち、修繕と新しい公衆浴場のあり方を目指し、
今回のプロジェクトが始まりました。
プロジェクトの概要
〜 大正
年開業 創業 年 〜これまでの公衆浴場を
これからの公衆浴場へ
これまでの「公衆浴場」
日本の文化としても誇り高い「公衆浴場」をより身近に、そして地元の方達の憩いの場となってきたこれまでの「公衆浴場」。各都道府県の組合の規定において定められた入浴料で誰もが気軽に利用することができます。しかし、若者たちの銭湯離れや後継者不足の影響により現在、全国の「公衆浴場」はピーク時に比べ89.6% 減の1,865件(2022年の調査において)しか残されていません。そして、今現在も減少の一途を辿っております。
そんな日本の文化とも言える「公衆浴場」をこれからも残していくため、新たなこれからの「公衆浴場」のあり方を模索し始めました。
公衆浴場の新と真
鹿児島県民の日常に寄り添い続けてきた温泉銭湯。時代の変化とともに100年以上まちの人たちに愛され続けてきました。これまでもこれからも、愛され続ける場づくりを。まちの文化でもある温泉銭湯が、ただ身体を洗うだけの場所じゃないことをこれからも大切にしていきたい。長年、社交場と呼ばれ続けてきた場所を今の時代だからこそ、外に開く。街と暮らす、街と生きる。人々の日常が少しでも豊かに、体も心も温まる、面白いモノとコトとヒトが交わる場所にしていくためのリノベーションです。
具体的な改修点
長年親しまれてきた浴場の形はそのままにサウナと水風呂にゆとりを持たせました。
温泉はこれまで通り、源泉掛け流し。電気風呂やジャグジーなどがわかりやすいようにとサイン関係にもこだわり、どの方にとっても使いやすいインクルーシブな環境を意識しました。
男性サウナはオートロウリュウ、女性サウナはウォーリュウを導入。熱だけでなく、湿度と香りも楽しめるサウナへとバージョンアップしました。
これまで着替えるだけの場所だった脱衣場はより使いやすく、天井を吹き抜けにすることで空間的な余白も広がりました。
備品等もこだわり、現在女性更衣室のドライヤーはパナソニックナノケアドライヤーを導入。温泉成分で肌を癒し、ドライヤーで髪を労ることができます。
大きな変更点としては番台。AI が進む現代においてあえて「人であり続ける」を選んだ番台。人と人を繋ぐのはやはり人。リノベーションを機に導入した BANDAI COFFEE のドリンクを片手に対話や文化の交流が生まれる空間づくりを行いました。
PROJECT TEAM
プロジェクトへの想い
2022年夏にお声がけいただき、プロジェクトが始まりました。 新しく新築するか、これまでの建物を残してリノベーションするか検討する中で、 「まちに開いた愛され続ける公衆浴場をつくりたい」という、お施主さんのお言葉から これまでの記憶を継承しながら、未来へと歩みを進めるよう、リノベーションすることとなりました。 私たちは、リノベーションに際してそのデザインは然ることながら、 ブランディングこそ最優先課題と考え、ともに前進できるようなチームをつくることを提案しました。 様々な分野において鹿児島で活躍する同世代の方々をお迎えし、それぞれの立場で目標に向かってより良いをつくることを目指しました。 リノベーションの手がかりになったのは、これまでの薬師温泉の番台周りで生まれていた「温かいコミュニケーションの風景」。 その番台を外からも見えるようにしてはどうか、公園の良好な環境を取り込もう、温泉の定番である珈琲牛乳をオリジナルで提供してはどうだろうか、 と現在の薬師温泉の姿がイメージされていきました。 風呂なしの家はほとんどない現在。入浴のために“行く必要があった場所”から、“わざわざ訪れたくなる場所”へ。 公衆浴場の廃業が続く中、鹿児島の古き良き公衆浴場文化の持続可能性を見出せたように思います。
atelier SALADA
栫井 寛子・徳永 孝平
プロジェクトへの想い
地元の歴史ある温泉のリニューアルプロジェクトに携わることができ、大変光栄に思っています。 ロゴデザインをはじめ、館内サインやツール、グッズに至るまで、トータルでデザインに関わらせてい ただけたことは、非常に貴重な経験となりました。
また、プロジェクトチームとの打ち合わせは、刺激的で楽しく、素晴らしい思い出として心に残っています。
ロゴデザインにおいては、これまで温泉を訪れてきたお客様はもちろん、リニューアルを機に増える であろう若いお客様にも長く愛されることを目指しました。温泉の湯気やゆらぎ、そして温泉に浸かる人々をシンプルに表現し、親しみやすい「新しい温泉マーク」として、多くの方に認知していただけるよう、アイコニックなデザインを心掛けました。
また、ロゴタイプ( 英文フォント) もオリジナルで制作し、館内サインにも活用しています。温泉に浸か りながら、そのデザインも楽しんでいただければ幸いです。
PRISMIC DESIGN 代表
二野慶子